大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和43年(ラ)120号 決定 1968年11月26日

抗告人

不二毛織株式会社

代理人

石原金三

ほか二名

相手方

中部観光株式会社

主文

原決定(執行取消決定及び更正決定)を取消す。

相手方の執行処分取消の申立費用及び抗告費用は相手方の負担とする。

理由

抗告代理人らは主文同旨の決定を求め、その抗告理由として述べた要旨は次のとおりである。

(抗告理由の要旨)

一  抗告人は訴外幸福相互銀行から賃借中の土地及び駐車場設備を相手方に賃貸中であつたところ、相手方が賃料を支払わないので賃料不払を理由に右賃貸借契約を解除し、同時に名古屋地方裁判所に対し右物件の明渡を求めるべく断行仮処分の申請をなし、昭和四三年八月二七日右認容の決定(以下単に第一次決定という)を得、同年八月三〇日執行官林平三をして明渡の執行をし、右執行を完了した。

ところで第一次決定によれば、その但書において相手方が金五〇〇万円の供託をするときは、この決定の執行停止とその執行処分の取消を求めることができる趣旨の裁判が付された。

そこで、相手方は右執行終了後一ケ月になつて、右但書にもとづき金五〇〇万円の供託をし右執行の取消を求めたので、同年一〇月二日仮処分命令の執行取消決定(以下第二次決定という)がなされた。ところが、翌三日原裁判所は職権をもつて「被申立人は申立人に対し別紙物件目録並びに図面記載の土地および駐車場設備を明渡せと追加更正する」旨の更正決定(以下第三次決定という)をなした。

二  しかしながら、原審が第一次決定に「予め解放金供託による執行処分の取消を求めることができる」旨定めた真意は、第一次決定がなされその執行が終了するまでの間に相手方において解放金を供託したときは第一次決定を取消す旨を宣言したもので、執行終了後においてはもはやこの決定で執行取消をなし得ず、特別事情ある場合にのみ改めて民事訴訟法第七五九条の取消がなされることとなる趣旨と解すべきである。

けだし、仮処分の執行取消を予め予定することは、すでに第一次決定自体断行仮処分を許されざる事情があることとなり、自己矛盾に陥ることとなる。本件においては特別事情の考慮がされず取消していること、仮処分はその本質から仮差押の解放の如く解放金の上に差押の効力が及ぶように理解できないこと、仮処分の保証金が金五〇〇万円であるのに対し取消のための解放金額が同じく金五〇〇万円であつて解放金額が少いこと、断行仮処分に対し取消して原状回復することは逆の断行仮処分となること、結局相矛盾する断行仮処分が併存し第一次決定が保証金まで供託してなした仮処分を全く無意味とし、権利者の利益を侵害すること大であることなどを綜合すれば、特別事情の存しない本件において、執行取消をなした原決定は失当である。

三  第三次決定(更正決定)は明らかに民事訴訟法第一九四条第一項の法意に反したものである。すなわち第二次決定が第一次決定の主文但書にもとづきなした執行取消の裁判であるのに対し、第三次決定は第二次決定で予期しない事実上の取消執行のための断行執行を命じたもので、違算書損その他これに類する明白な誤りがあるときに許される更正決定の範囲を超え、第二次決定と異なる本質的裁判であるから違法というべく、取消さるべきである。

(当裁判所の判断)

本件記録によれば抗告理由の要旨一の事実を認めることができる。

そこでまず第二次決定による執行取消の当否につき考察する。

仮処分債務者に対し仮処分債権者への家屋の引渡を命ずるがごときいわるゆる断行仮処分については、その仮処分命令に解放金額が定められていても、仮処分債務者がこれを供託することによつて、執行処分の取消をもとめうるのは、仮処分の執行終了前に限らるべく、執行終了後は許されないものと解するのが相当である。けだし、かかる断行仮処分においては仮処分債権者はその執行によつて保全処分の暫定的、仮定的性格にもかかわらず、直ちに権利の実現をもたらし、それと同時に執行は終了するものと解しなければならないからである。したがつてその後においては執行裁判所ももはや仮処分における執行処分を取消し原状回復を命じえないものといわねばならない。

本件記録によれば、相手方は本件の断行仮処分の執行によりすでに係争地の引渡をうけその占有を取得したこと(相手方はさらにこれを第三者に使用せしめている)したがつて、これによつて本件は仮処分の執行は終了していること明らかであるから、相手方において、もはや仮処分決定の定める解放金を供託しても執行処分の取消を求め得ないというべきである。

してみれば、第二次決定の違法なるこというまでもなく、従つてまた第三次決定による更正の許されないこともちろんである。

以上の次第ゆえ原決定(執行取消決定及び更正決定)は維持できないからこれを取消すべきものとし、民事訴訟法第四一四条、第三八六条、第九六条、第八九条に従い、主文のとおり決定する。(成田薫 布谷憲治 黒木義朝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例